セブン本部に公取が排除命令へ

http://www.asahi.com/national/update/0528/TKY200905280360.html

 公取の調査をすっぱ抜き、今回も一番詳しく書いてる朝日ソースで。

 セブンイレブンは、本部直営店を除き、私のような個人オーナーが本部(セブンイレブンジャパン)と加盟店契約を結び、いわゆる暖簾を借りる形で経営している個人事業店である。知らない人から見れば、すべて本部傘下の一体となった企業だと思われるが、本部と加盟店はあくまで、建前上は対等の立場であり、いわば密接な取引相手同士と考えて差し支えない。そしてお互い異なる事業者である以上、一方が他方に対して価格を指示し守らせることは、独占禁止法上の価格拘束にあたる。当然このことは本部も承知で、加盟店契約書上では、加盟店は商品の小売価格を自由に決めることができる、と明記されている。しかし、実態としては上記の記事のとおり、本部から加盟店に対する価格拘束は、実際には存在する。

 メインになるものは、デイリー品に対してのものだ。デイリー品とは、「消費期限」が設定された商品、つまり比較的痛みやすい、製造から短い間に消費しなければならない商品に対するものである。具体的に挙げていくと、弁当、おにぎり、サンドイッチ、パン、惣菜、デザート、乾燥ではない麺類、紙パック飲料などといった感じだ。こうした商品は、その多くがセブンイレブンがオリジナル商品として、各地の中小メーカーと契約し製造、販売している。そして、それらは店舗の売上の半分近くを占める、いわばコンビニの主力商品群といえる。こうした商品を、本部に分かる形で値下げして販売すると、すぐに本部から連絡が飛んでくる。一方デイリー以外の商品、単純に非デイリーと呼んでいるが、菓子や雑貨、加工食品、ソフトドリンクといった商品は、原則値下げは問題ない。本部も商品入れ替えを円滑に行うため、動きの止まった非デイリー商品は、販売促進のため値下げすることを、むしろ推奨している。しかし、これらも半額より安くすると連絡が飛んでくる。

 この理由として挙げられるのが、商品を廃棄にした際の負担は、全額加盟店が負うという契約方式である。フランチャイズ方式の契約では、フランチャイズ加盟店はフランチャイズ本部に対し、何らかの形で暖簾代、ロイヤリティを支払う。そしてこのロイヤリティの計算の関係では、商品を値下げした場合、その値下げした金額分は本部と加盟店の間で、一定の割合で分担して負担する形になる。極端な話、廃棄の商品を1円に値下げして買い取ってしまえば、加盟店側の負担金額は半分から3分の1になり、残りは本部が被ることになる。なので、賞味期限が長期あるいは存在せず、売れないものが売り場を占有する恐れのある非デイリー商品はともかく、早いサイクルで廃棄により商品が入れ替わるデイリー商品を値下げすることは、本部にとって何の利益にもならないどころか、損害になるだけなのである。ここに本部が加盟店に価格拘束をかける理由がある。

 しかし、私個人としてはデイリー品の値下げについては、あまり積極的にやろうと思わないのが正直なところだ。というのも、そこまで騒ぐほど廃棄が経費として、経営を圧迫していないからであり、またそうである以上、値下げが解禁されると、セブン同士での価格競争に巻き込まれ、利益率が悪化するリスクをはらんでいるからである。そう、この価格拘束は、一見本部が強制しているようでいて、一方では本部主導による加盟店同士のカルテルであるとも言える。セブンはドミナント方式といって、店舗の出店を集中的に行う戦略をとっている。これは、全国展開しているローソンやファミリーマートに対し、遥かに多くの店舗をセブンは抱えているにも関わらず、1店舗も出店していない県がいくつもあることに表れている。ドミナント方式によって高密度に出店しているセブン同士が、価格競争によってお互い潰し合いをはじめては、このドミナントという戦略自体が破綻しかねない。個人的には、値下げによって本部が被る直接的な損害より、こちらの方がより長期的には重大な問題となりかねないと考えている。加盟店にとっても、一時的に廃棄の負担に喘ぐ店は一息つけるだろうが、それまで廃棄コストに充分耐えられていたような、経営体力の整った店と価格競争になった場合、より厳しい状況に晒される可能性も高い。

 公取の排除措置命令には、審判請求や裁判などといった逃げ道もあるにはある。だからこれらで先延ばしはできても、正直実態から考えれば、本部が状況を覆せるとは考えにくい。となると、本部の選択肢は2つ。契約書通り値下げを認めるか、現行の加盟店による廃棄の全額負担をやめるか、である。短期的に見れば、廃棄の全額負担は数百億円単位で本部の営業利益を減少させる。当然そうなると、本部上層部はもとより、株主などの反応は否定的になるだろう。しかし、前述した通り、長期的な視野に立った場合、値下げが野放図に横行するようになれば、加盟店も本部も自身の首を決定的に絞めることになりかねない。

 そもそも今回の問題は、商品開発や本部社員による経営指導という形での発注指示など、本部が全く店の仕入れに関わっていない訳ではないのに、加盟店が仕入れた商品に対し全責任を負わねばならないという、契約そのものに対する不公平さに対する不満が原因になっているとも言える。ロイヤリティの計算が一般の会計方式に対し、かなり特殊になっているため、加盟前の説明ではなかなか理解できないというのも、この不満に拍車をかけているだろう。事業者同士の契約である以上、判子を押したものにガタガタ言うのはあまり美しいものではない。だが、フランチャイズシステムとは、フランチャイズ本部がそのフランチャイズシステムを加盟店へ販売しているとという側面もあり、その観点からは消費者としての加盟店側に、充分な公平さの担保や、法的保護があるとは言い難いのも実情である。一オーナーとしては、今回の件を契機に、長い目で見て本部と加盟店が共存共栄していける選択を取ってくれることを、切に願ってやまない。

 なお、審判請求、裁判と延々事態を長引かせるのは、契約書でも謳っているセブンイレブンのイメージを守り高めることとは、全く正反対のことであると思えるということも、最後に付け加えさせてもらう。